アメリカの病院は、「ジェイコー」の認定がないとやっていけない
ジェイコーはすごい威力を持っている
まず、JCAHOと書いて「ジェイコー」と世界中の人々に読ませてしまうところから、すごい
無理がある
でもみんなジェイコーの威力にはかなわないから、黙って従う
ジェイコーが来る!となると、病院の上から下まで騒然とする
なにしろ、ジェイコーが「OK」を出さないと保険がおりない
病院が成り立たない
評判が落ちて患者が来ない
そんな病院では誰も働きたくない
病院の存続が大きくかかっているのだ
ジェイコーは強力なパワーを持つだけじゃなく、かなりシツコイ
一度来ると、1週間は滞在する
なにしろ550項目くらい審査するらしい
管理部門、医師、看護部、薬剤部のみならず、ハウスキーピングやゴミ、栄養部、エンジニア…全部見ないと気がすまない
基準に達していない項目があれば、6ヵ月後にまたやってくる
それまでに何らかの改善をしなくてはいけない
6ヶ月経っても忘れてはくれない
シツコイどころか、性格が悪くなってきている
「3年ごと」の到来だったはずが、これからは、いつでも「抜き打ち」で来るそうだ
ジェイコーが来たいときに、いつでも来る
もうジェイコーのなすがまま
しかも、ジェイコーにはお金がかかる
認定費は、もちろん病院もち
お願いして評価してもらうのだ
さらには、ジェイコーが来るときはスタッフの欠員が出ないように大目に人を配置しておく(ちなみに、お給料は時間給ですから、1日多く出るとその分払われます)
もちろんジェイコー対応人員も必要だ
こういった管理部門の人員はともかく、病院セキュリティーも大変
ジェイコーが使う部屋は24時間強面のセキュリティーがドアの前に座って、書類が盗まれないように監視している
朝には、おじさんもちょっと眠そうだ
なにしろ、空っぽの電気のついた鍵のかかった部屋の前に夜通し座っているのだから
新しいシステムの構築のお金もかかる
今回うちの病院は、医師の書いた薬剤のオーダーが実際に薬局で調剤され病棟にあがってくるまでの流れに、「安全とはいえない箇所がある」といわれ、新しくコンピューターに薬剤を入力するための薬剤師を常勤で5人雇った
今まではクラークが病棟で行っていた仕事を、今度は薬剤師が薬局で行うことになるわけだから、薬剤師に払うお給料もさることながら、新しいシステムについての院内教育―クラーク、ナース、薬剤師全て―が必要になる
とんだ教育費への出費だ
私たちナースは、ジェイコーのいいカモ
なにしろ、一番長く直接患者ケアを行っている職員だから、ジェイコーはナースを攻撃したくて仕方がない
ナース1人に3人がかりでつめより、質問する
師長は「ナースが質問に答えられないと、病院全体が安全なケアをしていないという印象を与えることになる」とプレッシャーをかける
そして、ジェイコーが来る7週間前から全てのナースに特訓がはじまる
師長はそのための院内教育に参加した時間分、時間給を払わなくてはいけない
こっちは、お給料がちょっと増えるのはウレシイが、ジェイコー日までに習ったことを暗記しなくてはならないという宿題をかかえる
ジェイコー当日は、日常業務どころじゃない
患者のケアをしていると、なんか立派なスーツを着た評価委員たちが廊下で待ち構えていて、病室から出たとたん質問される
「ここの病棟では、患者の安全はどうやって守っているのかね?」
この一言に、9つの安全対策を答えなくてはならない
1. Improve the accuracy of patient identification
(例)与薬前に、患者の手首についているIDバンド(名前と診察券番号が入っている)を確認
2. Improve the effectiveness of communication among caregivers
(例)医師からの電話によるオーダーは、オーダーを書き取ったあと、読み返す “Dr., Let me READ BACK to you.” 書き取るだけではダメなのです
3. Improve safety of using medications
(例)病棟には、濃縮された薬剤を置かない 例えばKCL1、10meqのKCLは50mlの生食バックに溶かしたものしか使わない
4. Eliminate wrong-site, wrong patient, wrong procedure surgery
(例)チェストチューブ挿入前に、日付、時間、場所、患者氏名、診察券番号、挿入する位置、医師名、介助者名を、専用の用紙に記載する この用紙だって、ジェイコーのために作った 目立つようにショッキングピンク色の紙 目が痛い
5. Infusion pump safety
(例)点滴、経管栄養など、患者の体内に持続的に入るものは、全てアラーム管理 Free Flowは禁
6. Improve the effectiveness of clinical alarms
(例)輸液ポンプ、経管栄養ポンプなど、ありとあらゆるアラームのついた機械類のアラーム設定確認、点検札の位置などを示さなくちゃいけない
7. Reduce the risk of health care associated infections
(例)もちろん、手洗い あるいはDegermerという殺菌ジェルの使用 つけ爪禁止、なんていうのはアメリカらしい
8. Accurately and completely reconcile medications across the continuum of care
(例)外来~入院~転棟~転院~外来フォローなど、患者さんがどこに行っても、薬の情報がアップデートされているための記録用紙の使用
9. Reduce the risk of patient harm resulting from falls
(例)転倒予防として、行っていること・・・Low Bed、Bed Alarm、滑り止めつき靴下、柵について(2箇所か、3箇所か、4箇所かの判断基準)、転倒リスク評価
そして、チャートを広げて、どこにその記録が残っているか、証拠を示すまでジェイコーは信じてくれない
あるいは、Staff Education Resource Room に連れて行き、感染率や転倒件数の示されたグラフを見せ説明をしないと気がすまない
そして、ようやく「Thank you」の一言で私を開放してくれる
この一枚の認定書があるから、病院が明日からも病院をやっていける
私も同僚もリストラされなかった
認定書は、病院の正面玄関に掲げてある
しかも、目線の高さ(決して額のように高い位置には掲げない)
病院に入ってすぐ、目の前だ
車椅子でもよく見える低さ
そうまでして病院はコレを見せたい
これがジェイコーパワー
ジェイコー → Joint Commission on Accreditation of Health Care Organization 医療施設評価合同委員会